『待合室』第29号掲載記事

(少女と)鉄道のある映像作品

「黒川芽以 鉄道と私 東北編 くりはら田園鉄道」

OB寄稿記事


10代女性タレントのグラビアなどでは、「少女と鉄道」という組み合わせがよく使われてきた。 舞台はローカル鉄道の木造無人駅などで、服装はセーラー服や、 純白のワンピースに麦わら帽子などといった、清純だが古くさいものが定番のようだ。 ローカル鉄道風景のノスタルジックな雰囲気の中で、少女時代のはかなさを強く表現しているのだと思われる。

実際には、そのような姿で駅に佇む中高生はほとんど見たことがないのだが、 妙に懐かしさを感じてしまうのは、私も若くなくなってきたからだろうか。

これまでの「待合室」の流れでゆくと、渥美清の喜劇列車シリーズ、 水野晴郎のシベリア超特急シリーズなどを紹介するのが王道(?)なのだろうが、 今回は趣向を変えてみた。


くりはら田園鉄道の線路
タイトル画面は、くりはら田園鉄道の線路。
電車時代の架線柱が残る
このDVDで鉄道の旅をする女優・黒川芽以さんは、 10代前半から雑誌モデル、またジュニアアイドルとして活躍し、 過去には写真集の売り上げ最高記録を作るほどヒットしたそうだ。 2007年現在で20歳となり、現在はドラマ、映画、舞台女優として活動している。
押しボタン式ドア
押しボタン式ドア
三日間にわたり、釜石線・三陸鉄道南リアス線・大船渡線・東北本線・くりはら田園鉄道と乗り継いでいく。 普通列車の座席にばかり座っているが、全て実際に列車で移動したとしたらかなりお疲れだと思う。
スタンプ改札
スタンプ改札
乗り換えるたびに、スタンプ式の有人改札、ワンマン列車の整理券、押しボタン式の自動ドアなど、 何気なく一瞬で通り過ぎる部分だが、都会育ちの人には珍しいであろう物が映される。 また、車両ごとに違う運転室を映してくれている。
窓口に飛んできた駅員
窓口に飛んできた駅員
気仙沼駅では窓口に駅員がおらず、中に声を掛けると駅員が慌てて飛んできたのが面白い。 ローカル線ではよくある出来事である。
車内を撮影する
車内を撮影する
作品中で芽以さんはビデオに撮られながら、 たびたび自分でも手動巻上げ式のフィルムカメラで撮影している。本人の趣味のようだ。
扇風機を動かしてみる
扇風機を動かしてみる
国鉄型のキハ47のことを「レトロな車両」と感じ、扇風機のスイッチを押してみたり、 窓を開けてみたり、車両連結部を写真撮影している。
窓を開けてみる
窓を開けてみる
最近JR東日本では、ローカル線用の車両ですらエアコン装備・固定窓が当たり前になってきた。 田舎育ちの私からすれば何の変哲も無い無個性な国鉄型車両も、 東京育ちの若い女の子にとっては物珍しく旅情を感じさせる車両なのだろう。


この作品の中心は大正10年開業、平成19年春に廃止となった「くりはら田園鉄道」の紹介で、 半分近くの時間を割いて紹介している。 鉄道会社の事務所は、まるで古い学校の職員室のようで懐かしい雰囲気だ。

資料室を見学
資料室を見学
建物内にある資料室で、様々な展示物を前にして――
  • 芽以 「男の子とかが嬉しいですよね、小さい男の子とか、わくわくしちゃう・・・」
  • 社員 「(笑)そうですね、鉄道マニアの方がね、大変喜びますね」
  • 芽以 「ああ、マニア・・・もあるし、ちっちゃい男の子が多分・・・」
古い待合室のベンチ
古い待合室のベンチ
芽以さんにとっては自分の弟さんのことを思い出しての発言だったようだが、 社員さんは正直に現実を語っておられたのがちょっと可笑しかった。
転轍機を動かす駅長
転轍機を動かす駅長
駅舎も設備も大変古く、駅長もご高齢の方だ。 腕木式信号機、タブレット閉塞機を実際に動かして説明してくれる。 芽以さんには難しすぎてよく理解できていないようだが、とにかく、 古い昔のままの方式で運転を続けてきた鉄道なのだということが繰り返し説明されている。
硬券乗車券
硬券乗車券
硬券乗車券も、現代では物珍しくなった。 芽以さんは「子供のおもちゃの切符みたい」ということを言っている。
木枠の窓口ごしにきっぷを買う
木枠の窓口ごしにきっぷを買う
私が子供の頃は、駄菓子屋やスーパーの子供向けお菓子売り場などに、 おもちゃの硬券とハサミのセットが売られていたものだが、今でもあるのだろうか。


この作品は悪く言えば「低予算」「手抜き」なのだろう。 ビデオカメラが回っているのにスチール写真スタッフのシャッター音がしっかり聞こえたり、 音声スタッフの大型マイクが画面の隅に映っていたり、 カメラワークに失敗して、撮り直せるような場面でもそのまま進めているような箇所がある。
また、音声をカットして映像とBGMだけで作られているようなイメージシーンが少なく、 風が吹く音や歩く音、近くの駅構内を走る車両がレールを擦る音なども何の遠慮も無く耳に飛び込んでくる。
耳障りだと言われればそうかもしれない。 しかし、それでかえって自分も一緒に旅行をしているような臨場感がある。
販売元の、ぶんか社という会社はアダルトやロリコン向けの写真集ばかり出しているような会社だし、 スタッフの中でスチール写真担当の会田我路という人も、 普段は中高生のB級アイドルやヌード写真集などを多く撮影しているカメラマンらしい。
だがこの作品に限って言えば黒川芽以さん個人のアイドルイメージDVDなどではなく、 鉄道の旅を中心に据えた真面目な作りになっているので、鉄道旅行初心者におすすめです。


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