『待合室』23号掲載記事

あの駅は、今…

続・天幕駅の現状


交換用の線路とホームが撤去された天幕駅(平成13年4月28日)
交換用の線路とホームが撤去された天幕駅(平成13年4月28日)

以前この会報『待合室』(第21号「天幕駅の現状」)でも紹介した、 北海道を代表する秘境・辺境駅である天幕が、今岐路に立たされている。 元々1日の平均利用客が限りなく0に近かった同駅が、 この冬遂に臨時駅に格下げされてしまったのだ。 昨年2月に列車交換が廃止され、急速に存在意義が失われつつある同駅ではあったが、 それにしても突然の格下げに驚いた秘境駅ファンも多かったのではなかろうか。 今回はそんな消えゆく北の小駅を最新の訪問情報でリポートしたい。

まずは天幕をよく知らない方の為に、簡単に概要を解説しておこう。 この駅は石北本線の上川から東へ数キロほど進んだ標高382.252メートル地点にあり、 昔ながらの木造駅舎が残る味な無人駅である。 1日に止まる列車はなんと上下1本ずつだけというからなんとも寂しい。 また周囲にある民家のうち、実際に人が住んでいるのがたったの1軒だけで、 他はすべて廃虚というのにはちょっと驚いてしまう。

天幕駅外観・正面
天幕駅外観・正面

今年4月下旬、私はそんな天幕駅を1年ぶりに訪ねる機会を得た。 前回訪れた時は6月であったため、うっそうとした草木に囲まれているイメージがあったが、 今回は雪解け直後という事でかなり遠くから天幕駅を望むことができた。 長年北の厳しい風雪に耐え続けてきた立派な木造駅舎は1年前と変わらぬ力強さを感じたが、 近寄ってみると入口のアルミサッシに「冬期期間中営業休止」という粗末な貼り紙が貼られており、 何ともいえぬ物悲しさを感じる。

私は到着すると早速ホームへと出てみた。 するとそこにはもっと悲しい光景が目に入る。 去年の6月には確かにあったはずの列車交換用の側線とポイントが、 なんと跡形も無く撤去されていたのだ。 これで同駅での列車交換の復活は半永久的に叶わないものになってしまった。 しかしそれ以上に私がショックを受けたのが、 列車交換時に使用していた向かい側のホームがきれいさっぱりと撤去されていたことだ。 まあこのケースで側線を撤去することはよくある事だそうだが、 正直どう見ても列車の運行に支障がないであろうホームを撤去する必要性は感じない。 なぜ敢えて金のかかるホーム取り壊しを行なったのか理解に苦しむ。 秘境駅ファンとしては、 その昔この駅でたくさんの列車がすれ違っていた頃の痕跡を残しておいてほしかったと思ってしまう。 使わなくなったホームが草むらの中から顔を覗かせている風景は、 なかなか味のある物だと思うのだが…。

天幕駅時刻表
天幕駅時刻表

天幕駅待合室内部
天幕駅待合室内部

駅舎に戻り中を見まわしていると、どうも何かが足りないような気がする。 そういえば前に来た時は、待合室の中央にどっかりと除雪機が置かれていたのだ。 駅が冬季閉鎖になり除雪の必要が無くなった為、これも回収されてしまったらしい。 でもこれは待合室が広々として良い事だ。 また長年の間閉鎖され続けていた待合室内のトイレが、 なぜか今になって使用可能になっていたのもまた同駅の数少ない明るい話題だ。

それにしても天幕駅は今後、どういった道を歩んで行くのだろうか。 定期利用者が全くいない現状を考えると、通年営業駅への返り咲きはまず無いだろう。 するとこのまま季節営業駅として、 物好きな鉄道ファンなどを相手に細々と営業を続けてくれるのだろうか。 それともやはり近いうちに廃駅になるのだろうか。 この辺は人によって意見が分かれる所だが、一応株式上場を目指しているJR北海道も、 当然この様な採算性の悪い駅をいつまでも放っているとも考えにくい。 また今回の季節駅への格下げそのものが、駅廃止への布石であったという見方もできる。 以外にも今年の冬を迎える前に、 急転直下の勢いで廃止というような結論が出る事もありえないわけではないと思う。 いずれにしろ長年もの間、数々の旅人達をその独特の雰囲気で唸らせてきた、 北の味な無人駅天幕の存続に黄色信号が灯った事は確かである。

天幕駅外観・右側
天幕駅外観・右側

天幕駅外観・ホーム側
天幕駅外観・ホーム側

ほどなく出発の時間となり、私は待合室のドアをピシャリと閉め、車へと向かった。 私はまだこの駅で佇んでいたかったのだが、今回は自分一人の単独行動ではなかったし、 後に予定も控えていたのでここは仕方ない。後ろ髪を引かれる思いで天幕地区を後にした。 よく考えてみると私は列車でここに来た事がなかったので、 実は今度近いうちに例の1日1本の列車に乗って再訪してみようかと企んでいる。 皆さんもぜひこの駅が無くなる前に、一度訪ねてみてはいかがだろうか。

ホーム撤去以前の姿(平成12年6月7日)
ホーム撤去以前の姿(平成12年6月7日)

取材日: 平成13年4月28日
原稿執筆: 平成13年5月中旬


※ 緊 急 速 報 ※

このほどJR北海道より、 平成13年6月30日限りで天幕駅を廃止するという発表がありました。 また同じ石北本線の中越・奥白滝と、 宗谷本線の芦川・上雄信内・下中川駅もこれと合わせて廃止になります。 一度に6駅もの廃止が行われるのは極めて異例で、 道内では深名線の廃止以来6年振りの事になります。

追記: 平成13年6月11日

訂正情報: 未使用写真追加


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